瑕疵物件の判断放棄構造

~ なぜ、売主は判断主体であることをやめるのか ~

※本ページは「不動産判断の構造マップ」における[⑤ 瑕疵物件の判断放棄構造]に位置づけられています。


「早く終わらせたい」
「本当に売れるのか」
「言われるがままに任せるしかない」──


心理的瑕疵、再建築不可、嫌悪施設隣接など、いわゆる瑕疵性を伴う不動産の売却では、売主がこのような状態に陥ることが少なくありません。重要なのは、これは感情の問題でも、理解力の問題でもないという点です。本稿では、瑕疵物件において生じやすい「判断主体の放棄」という構造的現象を整理します。

1.瑕疵物件で起きているのは「判断の停止」ではない

瑕疵物件の売却が進まないとき、しばしば「判断が止まっている」と表現されます。しかし実務上起きているのは、判断が遅れているのではなく、判断そのものが放棄されている状態です。


売主は、

・自分の経験では相場が分からない
・何が正解か判断できない
・口出しすれば間違える気がする

という認識に至り、「考えることをやめる」選択をします。

2.判断放棄が生じる構造

瑕疵物件では、次のような構造が重なりやすくなります。

要素内容
経験の断絶一般的な売却経験が通用しない
比較不能周囲に比較事例が見当たらない
不確実性の集中瑕疵・条件・将来リスクが複合
説明不能感自分では説明・反論ができない

この結果、売主は判断主体であることを自ら放棄し、最初に接触した不動産会社や紹介者に全面的に依存する状態になります。

3.「丸投げ状態」が士業にもたらすリスク

判断放棄は、一見すると士業や不動産会社にとって「進めやすい状態」に見えることがあります。しかし実務上、これは高リスク状態です。

・売却後に「もっと高く売れたのでは」と言い出す
・判断過程への納得がなく、結果のみを評価する
・責任の所在がすべて士業側に集中する

判断主体を放棄した依頼者ほど、事後的に強い評価を行う傾向があります。この構造を理解せずに進めると、士業側の責任は不必要に増幅します。

4.重要なのは「正解」を示すことではない

ここで重要なのは、士業や不動産会社が正しい価格や最適解を提示することではありません。必要なのは、売主が再び「判断に参加できる状態」を取り戻すことです。


そのためには、

・個人の見解
・感覚的な相場観
・専門家の断定

ではなく、判断を委ねられる構造が必要になります。

5.競争入札が「判断主体」を市場に戻す

競争入札による売却は、瑕疵物件において特に有効です。理由は単純で、判断主体を個人から市場へ移すことができるからです。


競争入札では、

・価格は一人が決めない
・複数の買手が独立して評価する
・結果は競争として可視化される

この構造により、売主は「自分で決めなくてよかった」ではなく、「市場が決めた結果だと理解できる」状態になります。これは判断放棄ではなく、判断主体の委託です。

6.瑕疵物件とは「判断が困難な物件」である

本稿でいう「瑕疵物件」とは、法的な定義に限定されたものではありません。

・心理的瑕疵
・再建築不可
・嫌悪施設隣接
・擁壁地
・災害危険区域
・土砂災害特別警戒区域
・浸水被害防止区域
・強い条件制約を伴う物件

など、一般的な価格感覚では減価率が判断できない物件を指します。共通点は、売主が「自分では判断できない」と感じやすいことです。

結語

瑕疵物件の問題は、価格の難しさではありません。判断主体が失われる構造にあります。士業に求められるのは、判断を代行することではなく、依頼者が判断を委託できる構造を整えることです。競争入札は、そのための有効な選択肢の一つです。本稿が、瑕疵物件を扱う際の見えにくいリスク構造を可視化する整理軸となれば幸いです。

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その他のご質問は、下部の「質問集」からご覧いただけます。

Q03.心理的瑕疵物件とは、どのような物件?
A03.人の死に関わる要因のある物件などです。

▽ 続きを読む ▽
建物や土地に物理的な欠陥がないにもかかわらず、過去に自殺・殺人・事故死・孤独死などがあった物件、または近隣に墓地・刑務所・暴力団事務所などの「嫌悪施設」がある物件を指します。

こうした物件は、R-auction®形式による売却が最適です。

<宅建業者の判断基準>
宅建業者では、一般的に
「その事実を知っていれば購入しなかったかどうか」
を判断基準としています。

<補足>
心理的瑕疵には明確な法的定義はなく、説明義務の範囲は社会通念や裁判例を基準に個別判断されます。

詳しくは、国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」をご参照ください。

<関連ページ>
心理的瑕疵物件の売却スキーム
<関連Q&A>
Q04.心理的瑕疵物件でも入札で売れますか?
Q05.なぜ、相続後に不動産業者が頻繁に来るのか?
A05.登記情報をもとにした営業活動によるものです。

▽ 続きを読む ▽
相続登記が完了すると、登記名義人の情報が法務局で公開される仕組みになっています。

不動産業者はこの情報を名簿業者から購入して、ダイレクトメールの送付や訪問営業を行っています。

突然の連絡に驚かれる方も多いですが、これは個人情報の漏洩ではなく、制度上認められた公開情報の利用によるものです。

<対応のポイント>
このような営業に対しては、無視することが最も有効な対応策です。
一度応じてしまうと、営業が長期化するケースもあります。

<士業としてのアドバイス>
ご相談者様には、
「相続登記が完了した翌日から不動産会社の訪問が始まる可能性がある」
と事前に伝えておくことで、不安やトラブルを未然に防ぐことができます。

<参考>
▸法務局「相続登記の義務化のポスター

<2026年10月の法改正>
・相続登記などどのような登記申請がされたかが分からなくなる
・営業目的の情報取得が事実上不可能になる

この結果、相続登記後に届いていた営業DMはほぼなくなる見込みです。個人情報保護の観点からも問題視され、司法書士会などからも要望が出ていました。

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